緊急銃猟対応管理システム
大町市での実証実験から導き出した、「安全」と「迅速」を両立し、「その一発の影響範囲」まで示す業務管理プラットフォーム。
これまでの大町市との取り組み
同じ猟友会の仲間として現場を見続けてきた2人の対話から、本システムは生まれました。
-
きっかけ
同じ猟友会で活動する、市職員とエンジニア。
出会い長野県大町市の市役所職員(鳥獣害担当)と、株式会社Goat Plus 代表は、もともと同じ猟友会で活動する仲間でした。
害獣対応の現場を共に経験してきた2人は、日常的に「これからの鳥獣対策はどうあるべきか」を語り合う関係でした。
-
2025年7月
環境省より「緊急銃猟」ガイドラインが公表される。
外部環境2025年7月、環境省より緊急銃猟に関するガイドラインが公表されました。同年9月施行。市街地での発砲判断という、極めて重い責任が現場の自治体職員に委ねられることになりました。
2人の間では、すぐに「現場でこれをどう運用するのか」という議論が始まりました。
-
2025年7月〜
まずは、マニュアル作成業務を受託。
第一歩大町市は、緊急銃猟に対応するためのマニュアル作成業務を Goat Plus に発注。「猟友会の仲間で、現場を知る技術者」だからこそ、机上の文書ではない実用的なマニュアルを作れると判断されました。
判断基準の明確化、新人でも対応可能な手順化、安全手順の標準化──。マニュアルは形になりました。
-
転機
「これでは現場では使えない」──共通の結論。
気づきしかし、マニュアルが完成に近づくにつれ、2人は同じ結論にたどり着きました。
紙のマニュアルを開いてから動いたら、獣にもクレームにも、間に合わない。40km/hで移動する獣を相手に、紙の地図と無線・電話だけで「安全」かつ「迅速」な対応はできない。マニュアルだけでは現場では使えない──。それが、現場を知る2人の偽らざる本音でした。
-
2025年8月〜
プロトタイプ開発スタート。毎日、現場と打ち合わせ。
共同開発そこから2人は、プロトタイプの開発に着手。エンジニアが画面を組み、現場担当者がその場で「これは違う」「ここはこう」と返す。ほぼ毎日の打ち合わせを重ねながら、機能の取捨選択を進めました。
「マニュアルを読まなくても、画面の指示通りに動けば法的要件を満たせる」──そのための機能だけを残し、それ以外は削ぎ落とす。現場主義の設計が貫かれました。
-
2025年9月〜
訓練を重ね、現場で本当に使えるアプリへ。
実証プロトタイプが動き始めると、次は実際の訓練で繰り返し検証。指揮官・ハンター・安全管理・広報など役割ごとに使い、不具合や使いづらさをその場で洗い出して翌日には改修。
このサイクルを通じて、「現場で本当に使えるアプリケーション」へと進化していきました。机上の仕様書ではなく、訓練の中で磨き上げられた実装が、現在のシステムの礎になっています。
-
次の課題
「環境省でも、警察庁でもない。客観的な監修者が要る」
問い直し訓練の中で、もうひとつの本質的な問いが浮かびました。
──このシステムは、本当に「現場の人を守る」設計になっているか?環境省でもなく、警察庁でもない。発砲する側の人を、独立した立場から守ってくれる監修者が必要だ。そこで Goat Plus は、狩猟免許を持ち、銃器・発砲事案に精通した弁護士を探しました。たどり着いたのが、銃器に詳しい代表的な判例「砂川ライフル事件」を担当した伊藤正郎弁護士(三重県弁護士会)。自身もハンターとして狩猟免許を所持する、稀有な存在です。
伊藤弁護士に法的監修を正式依頼。4要件チェックのフォーム設計、判断ログの永久保存仕様、エビデンスの残し方──。システムのフロー全体が、判例に通じた弁護士の視点で再検証されました。
-
2026年2月〜
「危険区域を、経験ではなく物理で示せないか」
跳弾シミュレーション訓練を重ねるほど、繰り返し同じ問いが出てきました。地図に手で描いた危険区域は、なぜその範囲なのかを説明できない。弾がどこに当たり、跳ね返り、砕け、どこまで届きうるのか——。Goat Plus は、弾道と跳弾を推定するエンジンを独自に開発しました。
ここでも設計を決めたのは訓練でした。射手は 1 人ではない。本当に怖いのは外した弾。現場から返ってきた指摘が、そのまま機能になっています。
-
現在
SGHC設立、他市町村へ導入へ。
広域展開大町市での実証で磨き上げられたシステムは、信州ガバメントハンター協議会(SGHC)をはじめ、県内外自治体からの問い合わせも増加しています。
「同じ猟友会の仲間として始まった対話」が、市町村の枠を超えた広域ネットワークへと育っています。
マニュアルで定めたルールを
「早く」「確実」に実行するための武器。
緊急銃猟対応管理システムは、「効率性」「安全性」「継続性」「信頼性」の4本柱で組織を支えます。
効率性
5つの主要機能を備えたWebアプリで、現場対応の「早さ」と「確実性」を担保。
安全性
跳弾シミュレーション × 危険区域マップ。「その一発が、どこまで届くのか」を弾道物理のモデルで計算し、地図に重ねます。
継続性
訓練モード × 全国事例共有で、人事異動があっても組織の対応力を維持・向上。
信頼性
弁護士監修により、法的観点でシステムフロー全体の正当性を担保。
現場対応を支える、5つの主要機能
マニュアルで定めたルールを、現場で「早く」「確実」に実行するための機能群です。
計画と実行のサポート(案件管理・進捗管理)
5フェーズ × 役割別タスクで、現場の「次にやるべきこと」を迷わせない
-
全工程の可視化
初期対応から事後処理まで、必要な全タスクを時系列リストで一元管理。
-
リアルタイム進捗同期
「未着手・進行中・完了」のステータスを瞬時に共有し、指揮官の焦りを解消。
-
各タスクの明確化
現場でマニュアルを確認するのではなく、必要なタスク内容と必ず確認すべきチェックリストがあるので、何をすればよいか迷うことがありません。
安全を『見える化』する(地図・配置管理)
Google マップ上で、全隊員・危険区域をリアルタイム共有
-
配置
全隊員の配置を Google マップ上で一元管理できます。役割別(ハンター/指揮官/安全管理/広報)にピンを置き分け。
-
危険区域の可視化
手描きの危険区域に加えて、跳弾シミュレーションで算出した到達範囲をそのまま地図に重ねられます。射線ごとの表示切替、航空写真とのズレ補正にも対応。跳弾シミュレーションについて詳しく →
-
移動後も即時に共有
獣が移動した場合でも、現場の職員に配置を即時共有できます。本部に再集合する必要がありません。
本部で「現場の目」を共有(ライブ配信機能)
AWS IVS による低遅延配信。判断の速さと正確性を両立
-
低遅延ライブ配信
対象鳥獣の動きや周囲の状況を、対策本部へリアルタイムで伝えることが可能です。
-
アーカイブ機能
録画した内容はアーカイブとして保存されますので、後での振り返りや検証にも有効です。
-
専用アプリ不要
特殊なアプリケーションのインストールは不要。ブラウザで完結するためシームレスな切り替えが可能です。
組織を『法的リスク』から守る(4要件チェック)
鳥獣保護管理法に基づく4要件をシステムがナビゲート
-
法的要件の強制確認
鳥獣保護管理法に基づく4要件(場所・方法・緊急性・安全性)をシステムがナビゲート。焦る現場でも確認箇所の不足を防ぎます。
-
判断プロセスの証拠化
「いつ・誰が・何を根拠に」判断したかをログとして永久保存。事後の説明責任に確実に応えます。
-
4要件の内訳
場所(住宅・学校等の建造物内または敷地内)/緊急性(人の生命・身体への差し迫った危険)/方法(銃器使用以外で危険を排除できない)/安全性(銃器使用の安全が完全に確保されている)。
現場の『今』をリアルタイムに共有
マルチデバイス × QR/URL認証で、応援機関とも即時連携
-
リアルタイム情報共有
応援に来た警察官や他自治体職員に、QRコード・URL からログインせずに有効時間内であれば閲覧可能です。
-
マルチデバイス対応
スマホ、タブレット、PC問わず、どのデバイスからでもアクセス可能です。
-
LINE連携
LINEを使用した情報共有も可能です。既存の連絡手段を活かしながら、システムの記録性を確保できます。
その一発が、どこまで届くのか。
市街地に近い場所での銃猟で、担当者が最後に迷うのは「本当に撃っていいのか」です。判断の根拠が経験と勘しかなければ、撃つ側も、許可を出す側も、住民に説明する側も、誰も安心できません。
緊急銃猟対応管理システムの跳弾シミュレーションは、弾がどこに当たり、跳ね返り、砕け、どこまで届きうるかを弾道物理のモデルで計算し、実際の配置のまま地図に重ねて表示します。「なんとなく危なそう」を、地図上の範囲に変えるための機能です。
弾種・地面・角度から、跳弾を推定する
弾は必ずしも当たった場所で止まりません。跳ね返り・破砕・埋没・貫通のどれが起きるかは、弾種・着弾面の材質・入射角・速度・気温で変わります。
-
弾種 4 種から選択
12GA スラッグ/.308 ライフル、それぞれ鉛・銅から選択できます。
-
材質 13 種に対応
コンクリート、アスファルト、軟土、水面、氷、凍結土、木材、鋼板、レンガ、窯業系サイディング ほか。冬季の凍結や、夏場に軟化したアスファルトの違いも、気温を入れれば結果に反映されます。
-
入射角は自動で決まる
射手の銃口の高さ・獲物の高さ・距離から自動で決まります(手入力の必要はありません)。
現場の配置のまま、射手ごとに計算する
実際の対応では、射手は 1 人ではありません。同じ獲物を狙っていても、危険区域は射手ごとに違います。
-
地図に配置した射手をそのまま選ぶ
着弾点は獲物の位置になります。射手 1 人ずつに弾種と銃口の高さ(伏射・立射・車上・やぐら)を指定できます。
-
「外した場合」も同時に計算
実務で本当に怖いのは、外した弾がどこへ飛ぶかだからです。
-
建物が弾を遮る効果まで反映
建物を取り込めば、建物が弾を遮る効果まで反映されます。
結果は、そのまま案件の地図と共有ページへ
計算した危険区域は、その案件の地図にそのまま反映されます。現場・本部・関係機関が同じ範囲を見ながら話せます。
-
3D と 2D で確認
3D で弾道と跳弾の軌跡を、2D の俯瞰マップで到達範囲を確認できます。
-
危険区域をゾーン別に表示
跳弾の到達域・近距離の危険域・弾片の飛散域・バックストップ背面・総合危険区域に分けて表示。致傷エネルギーマップでは、同じ範囲を「弾体致死域/破片致死域/破片傷害域/破片眼損傷域」の強度別に色分けします。
-
避難区分は 4 段階
「立入禁止」「屋内退避(上層階も危険)」「屋内退避(1 階で可)」「屋外退避可」の 4 段階。住民への呼びかけを、階の高さまで含めて具体化できます。
「なぜその範囲なのか」を説明できること
危険区域は、住民説明や事後の記録に使われます。だからこの機能では、説明できることを計算の速さより優先しました。
- 同じ条件なら、いつ・誰が実行しても同じ結果になります。乱数を使わず、起こりうる範囲の外側(最悪ケース)を求める設計です。「たまたま今回はこう出た」は起こりません。
- 跳弾・破砕・貫徹の計算には、Jauhari/von Mises/Poncelet/Recht-Ipson/NDRC など公表されている研究・経験式を土台にしています。
- 危険区域の描き方は、米陸軍 DA PAM 385-63 の SDZ(射撃危険区域)の考え方を参考にしています。
- 物理計算には約 190 件の自動テストを用意し、性質が崩れていないことを毎回確認しています。
「だいたいの値」ではなく、「起こりうる範囲の外側」を出す
危険区域に求められるのは、平均的にどうなるかではありません。最も悪い場合でもここより外には出ないという線です。
このシミュレーションは、その考え方で作られています。破片は最も軽く・最も速いものを想定し、散布は平均ではなく外側の縁を採り、到達距離は典型値ではなく最大到達距離を使います。そのうえで範囲を外側に広げています。
精度を競うのではなく、外側を外さないことを優先した設計です。だからこそ、表示された範囲は「ここまでは警戒する」という運用にそのまま使えます。
跳弾シミュレーションは、弾道物理のモデルに基づく計算です。ただし、建物の高さなど一部の入力は推定値であり、現地の地面の状態・気象・遮蔽物のすべてを再現するものではありません。そのため本機能は、起こりうる範囲を安全側(外側)に見積もる設計としています。
実際の安全確認・発砲可否の判断は、必ず現地の状況に基づいて行ってください。本機能は判断を支援する道具であり、現地確認に代わるものではありません。表示された範囲の外側が安全であることを保証するものでもありません。
組織の対応力を、止めない仕組み。
一度の導入で終わらせず、訓練と事例共有を通じて組織全体の対応力を継続的に育てます。
緊急対応の
「フライトシミュレーター」。
本番運用と同じUIで訓練を実施。組織の経験値を最大化します。
- 実践的なシナリオ訓練:アプリを実際に操作し、リアルな状況下での情報共有や意思決定を反復訓練
- 異動によるノウハウ喪失を防止:担当者が代わっても、本システムで訓練を積むことで組織全体の対応レベルを維持・向上
- 客観的な評価と改善:訓練結果はデータとして蓄積。組織の弱点を客観的に把握し、次の改善へ
全国の「成功」と「失敗」から学び、
組織の対応力を継続的に更新。
SGHC加盟自治体の事例を統一フォーマットで蓄積し、組織を超えた知の共有を実現します。
- 統一フォーマットで事例の蓄積:全国の成功事例・失敗事例をデータベース化
- 客観的な要因分析:成功要因はマニュアル改善へ、課題は訓練シナリオ強化へ
- 知の共有によるリスク回避:他自治体の経験を、自組織の備えに転換
専門家による監修
「発砲後に責任を問われるのでは…?」というハンター最大の懸念を、法的根拠に基づくシステムフローで解消します。
- 三重県弁護士会所属
- 「砂川ライフル事件」担当
- 自身も狩猟免許を所持
受賞・採択実績
第14回 信州ベンチャーサミット
「ソーシャル・イノベーション賞」受賞
緊急銃猟対応管理システムの社会的インパクトと事業性の両立が評価され受賞。鳥獣対策のDX化における先進事例として注目されています。