都市近郊における「緊急銃猟」の新たな課題
2025年の鳥獣保護管理法改正に伴い、私たちの生活圏内での「緊急銃猟」の必要性が高まっています。しかし、山林深部とは異なり、アスファルトやコンクリート、水路が混在する環境下において、射手を悩ませる最大の問題が「バックストップ(安土)」の確保です。
弊社では、法科学的および弾道学的知見に基づき、主要な銃種と多様な材質における弾丸挙動を徹底検証しました。その結果、多くのハンターが抱く「直感的な経験則」が、物理学的には危険であることが明らかになりました。

1.「15度の壁」と跳弾のメカニズム
跳弾を防ぐ上で最も重要な概念が「臨界角」です。検証の結果、一般的なフルメタルジャケット弾の場合、入射角が15度〜20度以下の浅い角度になると、バックストップの材質に関わらず跳弾リスクが極めて高くなることが判明しました。
跳弾した弾丸は、エネルギーを保存したまま方向を変えるため、想定外の方向へ致死性を維持したまま飛翔します。

2. 危険なバックストップの正体
検証により、以下の材質に対する認識を改める必要があることが分かりました。
水面(Water):最も誤解された危険地帯
「水は弾を止める」という認識は弾道学的に誤りです。入射角が約8度〜10度未満の場合、水面はコンクリートと同様に弾丸を跳ね返します(ハイドロプレーニング現象)。特に水深が2.5cm程度の浅い水たまりであっても、弾丸は水底に触れることなく跳弾することが確認されています。
凍結した土壌
冬季の猟で最も警戒すべき要素です。水分を含んだ土壌が凍結すると、その硬度はコンクリート並みとなり、完全な「跳弾板」と化します。雪原の下が凍結土である場合、平地での射撃は弾丸を数キロ先まで滑走させるリスクがあります。

3. スラッグ弾 vs ライフル弾:挙動の違い
使用する弾種によっても、バックストップに対するリスクの質が異なります。
- 散弾銃(スラッグ弾): 質量が大きく、硬質面に当たっても粉砕せずに変形して滑走する傾向があります。大きな塊として残るため、跳弾後も高い致死性を維持します。
- ライフル弾(高速弾): 硬質表面に衝突すると破砕しやすく、スラッグ弾に比べて長距離の跳弾リスクは低い傾向にあります。ただし、破片による近距離での被害には注意が必要です。

4.物理法則に基づいた安全対策
材質の硬さを克服できる唯一の要素は「角度」です。平地から平地の獣を撃つ水平射撃(入射角約1.7度)は、バックストップがないに等しい行為です 。
安全を確保するためには、以下の対策が不可欠です。
- ハイ・ポジションの確保: 車両荷台や高所からの「撃ち下ろし」を行い、地面への入射角を30度以上確保する。
- フランジブル弾(ソフトポイント)の活用: 硬質物に当たると粉砕される弾種を選定し、跳弾リスクを低減する。(現在日本での取り扱いはできない。)
- 厳格な安全確認プロセス: 射線上の材質と角度を、発砲前に論理的に評価する。
現場の「迷い」をシステムで断つ
このような複雑な弾道学的リスクを、緊迫した現場で個人のハンターが瞬時に判断することは困難です。だからこそ、弊社のシステムは「配置の可視化」と「判断の証拠化」を重視しています。
GPSによる隊員位置の共有や、法的要件のチェック機能を活用することで、現場の「勘」に頼らない、科学的根拠に基づいた安全管理を実現します 。物理法則は例外を認めません。だからこそ、私たちはテクノロジーでそのリスクを管理します。
※本記事の基礎データとなった「緊急銃猟におけるバックストップ性能および跳弾力学に関する包括的技術報告書」の詳細は、お問い合わせいただいた自治体様に開示しております。